2004.12 無料公開記事    ▲TOP PAGE

すべての人は店舗であり購買者

はてな代表取締役
近藤淳也




 人を機軸に置くことで、誰もが簡単に検索できるサービスを目指して起業した「はてな」。人と人との交流を活性化させる強みを生かし、今では国内最大のブログサイトを運営するまでに成長した。近藤淳也代表取締役は、ネット上での人の交流が定着した先に、誰もが売り手であり買い手である新たな流通の世界を描く。(聞き手は本誌・島田昇)

質問者の弱い立場

――文章で質問してそれを知っている人が回答してくれるという人力検索「はてな」は、非常に便利なサービスですね。なぜこのようなサービスを始めようと思い付いたのですか。

 検索エンジンを誰もが使いこなすのは敷居の高いことだと思っていました。適切な検索キーワードを入力して探したい情報を探り当てるのは、特に中高年の人などネット習熟度が高くない人には難しく、時間のかかる作業になることもしばしばです。

 しかし、文章で自分の知りたいことを聞くのは誰にでもできることです。今後、ネット上から情報収集する機会はさらに増えます。それを考えれば、“人に優しい”検索サービスが必要になるだろうと考えました。また、それを実現するには有料サービスでなければならないと感じていたんです。

――なぜ有料にこだわるんですか。

 掲示板のようなもので同様の無料サービスはこれまでも存在しました。しかし、無料だとどうしても回答する人の立場が強くなってしまいます。「そんな質問の回答はこのサイトにあるだろう!」だとか「何度も同じことを聞くな!」などとあしらわれてしまうこともあるんです。ネット習熟度の低い人は、詳しい人が当然と思っているようなことこそ聞きたいということも多いんです。

 質問する人の立場を強くしなければ、どうしても「悪いけど教えてもらえませんか?」という聞き方しかできなくなってしまいます。この「悪いけど」を取らなければ、気軽に質問することはできません。答える人にしたってボランティアではないのですから、無料で対価がなければ、きちんとした回答をしない人が出てくるのも当然でしょう。

 ですから、電話番号案内のように「電話帳で5分かけて調べるよりお金を払ってもすぐに調べて次の仕事を進めたい」というニーズや多少曖昧な質問にも答えられるサービスにしたいと考えたのです。

――ネット上のサービスは何でも無料と考えている人は多く、有料サービスを成り立たせるのはかなりハードルが高いことなのではないですか。

 最初はすごいハードルが高かった(笑)。ポイント購入にまで至らない状況がかなり続きましたからね。

 ところが、「はてなアンテナ」(別記事参照)や「はてなダイアリー」(同)などを加えたことでユーザー数が増え、さらに昨年末あたりからネット上の決済に対する抵抗感が徐々に薄れてきたようで、一気にポイント購入者が増えてきました。

 「はてなアンテナ」を始める前の利用者は、年間数千人程度。それが今では月間数万人ずつ増えてきています。特に、新規の利用者は「はてなダイアリー」目的の人が多いようです。

――「はてなダイアリー」はブログサイトでは最大の規模です。どの辺が強みなのですか。

 1つは開始が早かったということがあると思います。競合他社より半年以上早かったですから。
 後はコミュニケーションが活発になる仕組みが散りばめられていることが大きいですね。

 いわゆるブログと違う機能の1つとして、ユーザーが共同で作っている辞書のような「はてなダイアリーキーワード」というサービスがあります。例えば、映画についての感想を書いて、その映画のタイトルがキーワードのページを構成していると、そのページにはその映画のタイトルをキーワードとして含むブログがズラっと並びます。

 このような機能が自動的にくっ付いてくれば、見ず知らずの人とのコミュニケーションが発生しやすいんです。誰もが自分から進んで知らない人とコミュニケーションを取ろうと思うわけではないですから。

 このような機能で一度コミュニケーションが活発に始まってしまえば、他社のサービスに乗り換えるのも面倒ですし、知り合いにも同じサービスを使うように勧めがちです。

――ヤフーのような大手ネット企業が御社の主力サービスと同様の展開を始めたら脅威になりそうです。

 非常に脅威だと思っています。ただ、「はてなダイアリー」のようなものは運用が大変で、誹謗中傷や著作権侵害の部分を修正する場合も多いです。ですから、大規模サイトがいきなりやったらこうしたことへの対応が非常に大変だと思います。スモールスタートができないのは足かせになるのではないでしょうか。

 システム的には最適化したフレームワークのようなものを構築してあるので、かなり効率的な運用ができています。早期に改善し続ける仕組みには相当強みがあるので、半年くらい早く新たなサービスをリリースしていく自信はあります。まあ、脅威に変わらないということは重々承知していますけど(笑)。

本来は店舗でなく“モノ”ありき

――ECについてはどのようにお考えですか。検索サービスやくちコミサイトはECとの関連性がどんどん高まってきています。

 購買動機で多いのはくちコミだと思います。「良さそうな薄型テレビが発売された」だけではなかなか買うまでにはいかないですよね。それが友達の1人が買っただとか、知り合いの家に行ったらあっただとかで、いよいよ「自分も買おうかな」ということになるんです。いざモノを買おうという時、周りの人からの影響というのは非常に大きいはずです。

 それを考えると、モノを買うというのはCtoCなんじゃないかと思うんですよ。確かに、その間には流通などの組織は入っていますけど、そもそも買わせた最大の理由が友達からなどのくちコミだったとしたら、実はそれはCtoCだったと言えるのではないかという気がするんです。

 それの究極の姿として、友達に紹介したらその分の手数料をもらえるというような、“全員が店舗であり全員が購買者”という世界があると思っています。CtoCの間にある流通の「ほかよりも安い」だとか「ほかよりサービスがいい」という不特定多数の要素は、購買を決定付ける本質的なものではないと感じています。

 実際、CtoCのような購買行動は出てきていて、ブログで紹介しているサイトを見て5人の友達が同じモノを買ったというようなことがよくあります。在庫や家賃などのリスクを負わずに数%の販売手数料だけの収益を得るという個人のサイトも、最近は十分に1つの商店だと考えるようになってきました。

――ではその根元となるブログのようなサービスで優位に立ってしまえば、ECでも優位に立てると。

 そう。ポータル(玄関)サイトを押さえればネット上のすべてのサービスにおいて優位に立てるという発想に似ていますよね。

 でも、今のポータルって図書館の字引みたいな感じになっていませんか。何かを調べるのに一番便利だから使っているけど、楽しいから使っているわけではありませんよね。

 それなりにネットでコミュニケーションを行うと、ネット上に自分の“居場所”みたいなのところができてきます。すると、ネットを見る時にはまずそこに行くという人が増えていくはずです。それはブログのようなサイトであると考えています。

――将来的に最大規模のサイトになったとしたら、どんな形態のサービスになっていると思いますか。

 より賢い生活を支えるようなサービスにしたいですね。今あるサービスだけでもかなり賢く生活できるとは思いますが、その用途をさらに広げていきたいと思っています。

 例えば、僕は写真が好きなんですけど、どんなにいい写真を取っても自己満足で終わってしまうことって多いじゃないですか。それがネット上でたくさんの人に見てもらって、しかも100円くらいで売れるみたいなことになれば、やる気も起こりますし、売り物になるのだからどんどんこだわって作品のレベルも高くなってくると思うんです。そんなことが当たり前になってくれば、モノを買うという行為において新しい流通の形態が生まれると思っています。

 徐々に始めていますが、中期的にはECサイトへのアフィリエイトの開放をどんどん進めていき、ユーザーにも広げていきたいと考えています。ただ、これは業者が広告を過剰に行うことなどでサイトが荒れるということと表裏一体です。これをどう防ぐのかということを考えつつ、うちのサイトの雰囲気を保てるサービスを検討しているところです。

――仮想モールなどのサービスについてはどうですか。

 仮想モールや個人同士の売買システム、ネットオークション(競売)などは検討しています。考えているのは“店舗ありきのサービス”ではなく“モノありきのサービス”で、JANコードのデータベースなどを作り始めています。

 本来、まず店に行ってその後に店の中から商品を選ぶというのではなく、まず商品があって、選んでから買う店が決まるという方がしっくり来ると思うんです。ネット通販はかなりそういう風になってきているとは思いますけど、それをさらに突き詰めたサービスを提供したいと考えています。

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