2004.10 無料公開記事    ▲TOP PAGE


我々は消費者に守られている

カカクコム代表取締役CEO
穐田誉輝





 今年10月でIPO(株式公開)から1年になるカカクコム。サイト訪問者がヤフーのコンピューター分野を上回る価格比較とくちコミ情報のサイトは、EC(電子商取引)サイトに優良顧客を送り続ける。年間の取扱高は楽天に迫る1000億円に達している模様。穐田誉輝CEO(最高経営責任者)は消費者からの絶大の支持を武器に、比較対象をすべての商品・サービスに広げると意気込む。(聞き手は本誌・島田昇)

疎ましいが無視できない

――IPOするにあたり、2001年12月に創業者で前任の槙野光昭さんから経営のトップを引き継ぐこととなりました。当初、カカクコムのビジネスモデルについてどのような印象を持たれましたか。

 素晴らしいビジネスモデルだと思いました。

 他社が提供する価格比較サービスの大半は、ネット上にある価格情報を拾ってきて、それを安い順番に並べる「ロボット型」です。当社のサービスはパソコン販売店などの参加店舗が、競合する他店舗の動向を見ながら値付けしていくことで商品価格が競り下がっていく、いわば逆オークション形式のビジネスモデル。このビジネスモデルだからこそ、現時点で月間約524万人のユニークユーザー(2004年8月)が集まっているわけで、後発企業が参入しづらいんです。

 今でも直接的に競合する企業はありませんが、当時はまさに、インターネットの特性を生かした先見性のあるサービスであると強く感じました。

――槙野さんが在籍していた当時、「素晴らしいサービスだが儲からない」と将来性を疑問視する声もありました。

 そんなことはありませんよ。価格比較サービスの基本的なビジネスモデルは槙野さんが作ったものなので、今のカカクコムがあるのはその功績が非常に大きいです。確かに、槙野さんと比べたら私の方が多少商売っ気はあると思いますけどね。

 ロボット型の価格比較サービスであれば、技術さえあればどんな企業だってできます。それだと同じサービスを提供する企業で溢れて独自性をアピールすることができず、著しく競争力に欠けます。また、ロボット型であるがゆえに、細かい部分でユーザーのニーズに則した情報を反映することができないということもあります。

 ネットオークション(競売)など、カテゴリーによっては「ヤフー!オークション」のような大手ポータル(玄関)サイトと競合するサービスがあることも確かですが、サービス全体として見れば、当時から参入障壁の高いサービスを提供していると考えています。

――多数の店と比較して商品を購入するという点においては、仮想モールとかなり近いサービスとも言えそうですが。

 一見するとそう映るかもしれませんが、仮想モールとは本質的に全く異なるサービスだと思っています。

 と言うのは、サービスを提供している目線の先が仮想モールと全く違うんです。仮想モールは販売代理機能として出店舗に提供されるサービスで、「いかに多く売れる仕組みや仕かけを作るか」といったことに集中しなければなりません。つまり、仮想モールにとってのお客様は出店舗なんです。

 ところが、我々のサービスは徹底的にユーザー視点に立ち、いかにユーザーにとって利便性の高い情報やサービスを提供できるかといったことに集中しています。つまり、ユーザーが我々のお客様なんです。仮想モールはどんなにユーザーのニーズがあっても、お客様が出店舗である以上、大っぴらな価格比較や掲示板運営はやりづらいでしょう。

 ユーザー視点だからこそユーザーが集まり、サービスが成立する。ですから、我々は消費者に守られているんです。そのことは、逆にユーザーから支持を得られない状況に陥れればサービスが成り立たなくなるというリスクもありますが、ユーザーのダイレクトな声がカカクコムにあるからこそ、パソコンなどのメーカーは我々を無視できない状況になってきているようです。

――確かに、当時と比べると広告の出稿企業の顔ぶれがかなり変わっていますよね(笑)。国内PCメーカー最大手のNEC(日本電気)ですら出稿していますし。

 そうでしょう(笑)。2〜3年前はナショナルクライアントがうちに出稿するなんてあり得ませんでしたからね。「この店の商品が一番安い」だとか「この商品よりこっちの商品の方が使いやすい」というような情報ばかりを掲載しているサイトですから。メーカーはもちろん、小売の大型店にとっても、うちは相当疎ましい存在だったんじゃないんですか。

 それがデルさんと組んだことで状況が一変しました。「広告を出してもらいたい」とデルさんを訪問し始めたころは、「広告予算は5万円しかないですよ」とほとんど相手にしてもらえませんでした(笑)。しかし、「それなら成果報酬型広告のアフィリエイトプログラムで組もう」ということになりました。

 すると、開始から2日目でうちはデルさんにとって一番売れるアフィリエイト先のサイトになったんです。今では「世界でもこんなに売れるアフィリエイト先はありませんよ」と言っていただけるようになりました。

 それがきっかけとなって国内のメーカー各社もこれに追従し、主要パソコンメーカー15社と取引があります。現時点ではブロードバンドのネット接続サービスもかなりのボリュームになり、これらサービスを展開する「販売サポート部門」の売り上げは2005年3月期第1四半期(4〜6月)で前期比159.1%増の2億2100万円。これだけで対売上高構成比は51.4%と全売上高の半分以上を占める存在に成長しています。


衣食住に関わるすべてが対象

――当面は競合企業の出現といったような脅威はなさそうですが、中長期的なリスクや課題としては何が挙げられますか。

 リスクと肌で感じるものは正直、今のところほとんどありません。

 先ほど申し上げた通り、カカクコムは消費者に守られているサービスですから、当然、消費者にそっぽを向かれてしまうようなことになれば大きなダメージを被るでしょう。

 ただ、現状は消費者主導でサービスが成り立っているわけですから、我々がサービスに強く介入して嫌われたりしない限り、そうしたこともありません。

 掲示板にある明らかに製品の比較と関係のない書き込みなどは排除していますが、こうしたことによるクレームはゼロと言っていい状況。利用者は偏見のない比較情報を求めて訪問されているのですから、その辺はよく心得ているのでしょう。

 後々、仮想モールやポータルサイトと競合するんじゃないかというご指摘はよく受けます。しかし、比較に特化した消費者主導のサービスでは大きな強みがありますし、ポータルサイトなどが今後どのような形態になるかは分かりません。ポータルサイトなどが脅威になる可能性がなくもありませんが、現状では脅威とまでは感じませんね。

 課題は商品ジャンルの拡大です。うちはいわゆる“秋葉原っぱい”商品が多いじゃないですか。それを今後は女性が好む商品などにも商品数を広げ、衣食住の生活に関わるすべての商品にまで商品ジャンルを広げていきたいと考えています。

――通販業界では昔、OLの支持が厚い千趣会がファミリー層にまでターゲットを広げ、ファミリー層の獲得も振るわずにOL離れも招くという事例がありました。ターゲット層が明確なブランドがターゲット層を広げるのは難しいとも思いますが。

 それはやり方次第なんじゃないでしょうか。

 通販と違い、比較サービスは在庫を抱えたりすることがないので、サービスを出したり引っ込めたりすることが簡単にできます。

 例えば、当社は以前、「香水・化粧品」のジャンル取り扱っていました。しかし、今は膨大な商品数をより見やすく、さらに使いやすいものにリニューアルするため、一時的に閉鎖しています。

 その辺は物販におけるターゲット層の拡大と機動性において大きく異なるところだと思います。

 また、今後はモバイルにもサービス対応していきます。PCは持っていなくてもモバイルではネットを頻繁に利用するという消費者は少なくないので、ターゲット数が大幅に拡大します。加えて、モバイルは女性の利用者が多いです。ここで女性向けの提案をするなどして、多くの女性利用者を取り込めるんじゃないかと考えています。

 今年はモバイル経由のEC(電子商取引)利用も含め、本当の意味でのEC元年になるんじゃないんでしょうか。

CTOに大きな期待

――「販売サポート部門」を加えた広告事業は好調ですが、これまで主力だった価格比較でサイト登録店舗へ送客する「集客サポート部門」(前年同期比1.8%減の4700万円)が頭打ちになっている印象を受けます。

 これは課金方法の変更に伴って第1四半期から登録店舗からの広告料金を「広告業務部門」の売上高に計上したためです。登録店舗数は順調に増加しています。

 一方で、今はトラフィックをできるだけ下げるようにしています。今後の事業拡大に備え、システムのさらなる強化により今後のトラフィック増加にも十分耐えられるようにしてから、業務を拡大していきたいという内情もあります。

――そう言えば店舗の販売を支援するシステムを導入するという話もありましたよね。

 少し遅れているんです(笑)。実際は今でも導入しようと思えばできるんですが、店舗側にヒアリングしたらいろいろと要望が出てきたので、それらをきちんと反映したものにしないといけないなと。

 先ほどのシステム増強の話とも絡む話ですが、6月25日付でデジタルガレージから同社取締役CTO(最高技術責任者)の遠藤玄声を取締役に、同じく安田幹広を弊社の取締役CTOに迎えました。彼らには特にシステム面の強化で大いに期待しています。システムの基盤を整え、商品やサービスのジャンルはどんどん拡大していきます。

 やりたいことは山ほどあります。今ある商品とサービスジャンルは対象となるマーケットの5%くらいにしか達していませんしね。

――大きな目標の1つだったIPOを達成しましたが、それでは当分辞められそうにありませんね。

 まだまだやりたいこと、やらなければならないことが数多くあるので、辞めることは全く考えていないですね。もちろん、次の経営者を育てるのは重要な仕事ですが。

▲TOP PAGE ▲UP