2003.8 無料公開記事    ▲TOP PAGE

これからの顧客は
電話とメールを混合で利用する
ニッセン取締役 インターネット事業推進部部長市場信行氏


カタログとネットの顧客データは一元化しなければならない

――メール対応を組み合わせることでのコールセンター運営において、どのような点に気を使いましたか。

メール対応における企業の意識レベルは全般的に低いと思います。我々はネット販売のビジネスを行う前に考えたのは、コールセンターやコンタクトセンターは通販企業のコアの一つであるということです。

 というのは、消費者センターなどの調査を見ても訪販・通販のクレームは高いのが実情です。中でも通販のクレームはどんどん高くなってきており、過去には色々な問題がありました。それが徐々にインターネット通販のクレームにもシフトしてきおり、あるいはさらにシフトするだろうと思います。

そのため、ネットでの顧客対応の中心的な考え方をきちっとしていないと、顧客の不信感を取り除くことはできず、ビジネス自体がなり立たないというのが我々の考え方です。

 もともと、我々は自社でコールセンター・コンタクトセンターを運営するというのを大前提にしています。ネット販売を行うとき、これまでは顧客リストをカタログとインターネットで別々にしている企業は多かったと思います。それではシステム的に難しい問題もたくさん出てきます。

具体的には、ネットでも注文するし電話でも注文するというようなお客様に対応できなくなるということです。それでは満足がいく顧客対応を提供することはできません。そのため、当社はシステム的にもスマートに処理し、顧客リストを一元化できるようにしました。これならデータベースを完全に共有し、情報も一本化することができます。

――メールも電話も使うという顧客は意識しなければならないほどいるのですか。 

 そもそも、インターネットだけで本当にすべての顧客対応を完結することはできないと思っています。お客様の大半はインターネットのプロでネットだけを注文や問い合わせのチャネルとして使っているわけではないでしょう。

したがって、ネットだけではどうしても分からないことも出てくるはずだと思うのです。お客様にもよりますが、多くのお客様はハイブリッドで電話とネットを混合で使われるはずです。そのため、ネットと電話の顧客リストはもちろん、サービスの内容やレベルも共通するように努めてきました。 

返信メールは必ず3時間で返す 

――具体的にはどういったことを意識してこられたのですか。 

ネット販売を開始してから4年目に入りましたが、開始当初の時点からネット販売専用のコールセンターはあるべきだと思っていました。しかもそれはアウトソーシングするものではないと考えていましたし、現状、メールセンターはインターネットの利用時間に合わせて午前10時から午前2時までの2シフト体制でやってきています。 

しかもメールの返答は2448時間の間に返せばいいというようなものではないと考えています。そのため、適正な返答時間として3時間以内の返答という設定を決めました。平均は1時間くらいで、今のところすべて3時間以内で返せています。 

なぜなら、お客様はすぐに知りたいと思うからわざわざメールを書いて送ってきてくれるのです。たとえ世間一般的には24時間程度の返信が常識でも、早ければ早いにこしたことはないし、早い対応を受けたユーザーにとっては、それはもうサービスレベルの低いものになってしまうと思います。 

――メール対応で大変なこと何ですか。 

メールは難しい問題もたくさんあります。通販企業は平均で1時間7〜12件の顧客に対応をしていると考えていますが、メール対応には非常に力を入れるようになってきている印象を受けます。しかし、メール対応は下手をすれば揚げ足を取られたり、証拠が残っていると言われたり、掲示板に送ったメールを掲載されるなんていうリスクもあれば、書くという作業も大変です。そのため、メール対応は明らかに電話対応よりも効率は落ちます。 

――メール対応のコストは電話対応に比べ2倍以上のコストがかかると言われています。 

ただ、そうは言っても自動化できるところはあります。電話の場合、日本ではVRU(音声自動応答装置=IVR)など機械化された応答は嫌われるので、セルフサービスなどといったことはやりにくいのです。そのため、電話以外のウェブでのFAQや「ご利用ガイド」を分かりやすくするなどというように、お客様が自分で情報を得るための手段を広げることを考えてDBを開放することは有効なのです。これに対応できないものはたとえコストがかかっても、メール対応を懇切丁寧にやるというのが中心的な考えです。 

聞こえない“お客様の声”が聞こえてくる 

――メール対応における主なメリットは。 

 一方、メールは武器になります。“お客様の声”というものがありますが、電話のお客様の声を自動的にテキスト化してそれを分析にまわすというのはなかなか厄介です。しかし、メールは元々デジタルなものなので、そのままテキストマイニングにかけたり即時にそのやりとりを担当部署にフィードバックすることもできます。つまり、お客様の生の声を事業の中に組み込んでいくのが容易になるのです。 

さらには、メールでないと聞こえてこないお客様の声というものもあります。例えば、ニッセンの○○さんの電話対応が凄く良かっただとか、あるいは普通なら我慢してしまうようなネガティブなこともメールではっきりと言ってきます。こうした電話ではわざわざ言わないようなことも言ってみえるのです。つまり、通常であれば聞こえてこないような声を拾うことができます。 

 また、例えば忙しくて細かい納期が知りたいお客様はいつ商品がくるか分からなければ不安になりますが、それに対してメールでフォローすればお客様は安心します。あるいはお客様が何らかの理由で返品をした時、電話やハガキではコストがかかるので返品を受け取ったという連絡をしにくいですが、メールであれば簡単にできます。 

このようにメールを活用すればこちらがお客様の行動に対してもっともっと能動的に動くことができます。つまり顧客との接点を増やすことが可能なのです。 

6割の投資で8割の効果 

――メール対応におけるシステム化はどこまで可能なのですか。 

 メール対応を行う上で陥りがちな大きな間違いは、何でも自動化で応答しようとすることです。我々もどんどん自動化して電話並に効率よくメール対応したいという気持ちがなくはなかったのですが、実際にはこれの有効性はあまりないということが分かってきました。 

ネット販売展開において、どこまでシステム投資するのかというのは大きな問題です。当社では、100%完璧を目指そうとしても投資は60%で止めるという考えでやっています。100%の投資に対し、60%の投資でも、80%の投資分の効果は得られるものだからです。 

――メールセンターはどういった体制になっているのですか。 

 メールセンターの構築には色々と変遷はありました。当初は電話のセンターの中に入れました。しかし、電話はリアルタイムでやらなければいけません。電話が飽和状態になればオペレーターは電話の方にかかりきりになりますよね。それが一番の問題で、電話の応対が終わってメールを見るとメールが貯まっているということがよくあるのです。そのため、サービスレベルがばらついてしまったのです。 

また、技術的な問題もあります。ネット販売の顧客は技術的な質問をする人が少なくないし、さらには問い合わせが集中する時間の違いもあります。そうした経験があったため、コールセンターの中に内在しないメールの独立したセンターを作る必要があると判断したわけです。 

――オペレーターの教育はどのように行ったのですか。 

メール対応のオペレーターについては一から教育して育てました。3カ月くらいの教育をして、そこから先はニッセンのコールセンターでOJTをし、ニッセンの顧客対応の考え方をよく学んでもらいました。 

――メールセンターとコールセンターのシステム的なつなぎこみは完全にできているのですか。

 残念ながらメールセンターとコールセンターのつなぎこみの部分は完全にはできていません。例えばメールセンターのオペレーターがメールの情報と電話の情報を紐付けすることはできます。ただ、コールセンターのオペレーターが電話とメールの情報を紐付けすることはできません。 

もう少し具体的に言うと、通常のコールセンターにお客様が先日こんな内容のメールを送ったんだけどと言ってこられても、その分に対する対応は現状ではできていないということです。ただ、その必然性は意外と少ないのです。

電話のセンターに電話が入ると交渉の記録というのは必ず残る一方、メールのセンターの方でも交渉の記録で必ずキーになるものは入力するので、これについてはシェアできています。
(島田昇)


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