2003.12 無料公開記事    ▲TOP PAGE

<検証・シムリーの新規事業「スイートボート」の可能性>
成功なるか?“まじめな出会い系サイト”
〜その戦略と本当の狙いとは〜


今年の4月。シムリー(本社・香川県綾歌郡、南保正義社長、URL:http://www.simree.co.jp)はあるネットを介したビジネスに参入すべく、東京・渋谷に子会社を設立した。社名は「スイートボート」http://www.sweetboat.jp)。同社が手がけるビジネスは恋人や結婚相手の斡旋業、いわゆる出会い系サイトの運営だ。通販企業が行う事業としては極めて稀なこのビジネス。その異色さゆえ、発表当初は業界の内外で大きな話題を集めた(本誌9月号で既報)。しかし、その参入の意図や経緯はシムリー自体が「かなりナーバスになっている」(関係筋)ため、これまでのところ、あまり明らかにされていない。


通信販売とは畑違いとも言える“出会い系”事業での勝算、また参入の本当の狙いとは一体何なのであろうか。シムリーの新規事業子会社「スイートボート」の戦略と可能性について検証する。

必ず成功する”有名コンサル出身の事業プランを採用 

 始まりは今年2月に行われた「アントレプレナープログラム」認定のプレゼンテーションの席でのこと。同制度は社内外から新規事業のアイデアを募集し、有望な計画には資金面などの援助を行うシムリーの新規事業育成の一環だ。そこで、あるビジネスプランが採用された。有名コンサルティング企業アンダーセンコンサルティング出身の神田大治氏(現スイートボート取締役)が提案した出会い系ビジネスだ。


その後、シムリーは新会社設立のための資本金(2,000万円)の90%にあたる1,800万円に加え、借入金など億単位の資金を提供。4月に「スイートボート」を設立し、早くも6月に専用サイトのプレオープン、翌月から本格稼動を開始した。 

シムリーが採用を決定したと思われる本当の目的は後述することとして、まずは「スイートボート」のビジネス戦略とそれに沿った現在までの事業の推移について確認する。「出会い系ビジネスでの成功のポイントは明確。ここさえ守れば儲からないわけがない」――。そのポイントとは “安心感” と“集客”そして“高機能システム”だ。「すぐに日本最大の出会い系サイトが誕生する」と話す神田氏の自信の根拠。それはシムリーの資源を最大限に活用できるからだ。 

シムリーという安心感 

普通、多くの人は出会い系サイトという響きにはかなり悪い印象を持つ。昨今、利用者間のトラブルを伝える報道も頻繁に目にするため、当然の反応だといえる。しかし、逆にその不安さえ解消できれば、需要がないはずがないのが男女間のビジネスだ。この不安の払拭のために「スイートボート」は全会員に対して、身分証明書の提示を求め、本人確認なども行っているが、その最大の施策は“シムリー”という看板だ。東証一部上場会社で、なおかつ若い女性に認知度の高いカタログおよび店舗を持っている「イマージュ」を全面に打ち出すことで、出会い系サイトの負のイメージの払拭を図る。 

悪質な他の出会い系サイトにより、女性はトラブルなどの恐怖感から、男性はサクラなど詐欺的な行為の懸念から利用をためらっている。「きちんとした会社が“まじめな出会い系サイト”を運営している」ことをサイトや後述する告知チラシなどに謳うことで安心感を与えるのだ。 

イマージュで効率よい会員獲得 

 神田氏によれば、日本で出会いの場を提供する、いわゆる結婚相談所の最大手でも会員数は4〜5万人。出会い系サイトの中には「会員数100万人」と謳っているところもあるが、「(当該サイト)のアクセス数からして絶対にありえない」という。 

 一方、「スイートボート」の10月現在の会員数は約1万人(稼動ベースでは5,000人)で男女比は4:1。会員獲得の方法はシムリーの「イマージュ」の活用だ。現在は告知チラシを「イマージュ」の店舗店頭で1万5,000部、カタログ同梱で85,000部、合計10万部を配布。数パターンのチラシでレスポンスの違いなどを検証するため、年内までは10万部の配布に留めている。ただ、子会社という強みから部数を増やしても同梱費自体はほとんどゼロに近く、かかるのは封入作業と印刷コストだけ。そのため、「検証を終えた段階でシムリーのカタログすべてに入れようと思えばそれも可能だ」という。 

 もちろん、ターゲット層を考慮に入れると、同梱対象媒体は「イマージュ」など数媒体に限られる。「イマージュ」が年間でどのくらい、発行しているのかは不明だが、仮に400万部発行しているとしても、そのうち1%が「スイートボート」の会員になれば、4万人。「女性の場合、入会金は無料なため、安心感も手伝って集まりはいいはず。女性が集まれば男性はその倍はすぐ集まる」。 

単純計算すればこれまでの会員数1万人を加えると、これで会員数では日本最大級となる計算。しかも男女比は2:1と理想の形となる。そうなれば、「自然に会員数も増え始めその結果、一定の会員数さえ獲得してしまえば、あとはシステムが自動的に行うため、あまりコストをかけずとも利益を出し続けることができる」と神田氏は説明する。 

最新のサービスとシステムを提供 

 「スイートボート」のサービス(コンテンツ)は他の出会い系サイトと比べ、素人目でみても充実している。出会い系サイトとしては珍しいリアルでのパーティーの開催や、24時間年中無休のコールセンターなどだ。その点でも他社サイトとは一線を画しているといえる。しかし中でも注目なのが、11月7日からスタートした“ビデオチャット”だ。これは、専用のWEBカメラとヘッドセットをつけ、いわゆるテレビ電話のような形で相手の顔を見ながら会話が楽しめるというものだ。


11月から無料配布を開始した
「ビデオチャット」

  この仕組み自体、強力なキラーコンテンツなのだが、驚くべきはこの専用のWEBカメラとヘッドセットを無料で会員に配る(男性会員には一定の条件がある)ということだ。これについて「最近、街角で無料でADSLのルーターを配っているあのやり方ですよね」と説明する。まずはサービスが普及するよう、実勢価格5000円のカメラセットをプレゼントする形をとり、あとで利用料金として回収していくわけだ。 

「それでも多少はこちらの負担になる」が、徹底して先端のシステムとサービスにこだわっていく理由には会員獲得が目的だけではない。この仕組み自体を貸し出すことによる新たな収入源の確保だ。 

「スイートボート」のシステムは約4,000万円という出会い系サイトとしては多額のコストをかけ、構築した。この優れたシステムを他社にASP提供する計画を進めており、実際すでに某有名企業2社と具体的な話を詰めている。「当社のシステム(ソフトウエア)を使えば例えば、フィットネスクラブなど自社で会員を抱えているところであれば、簡単に“出会い系サイト”を開始することができる」という。 

 今後、ネット上のセキュリティーなどが整い始めれば、出会い系サイト導入も会員サービスの一環として面白いと考える異業種からの参入組も今後出てくるかも知れない。ただ、神田氏の言う通り、全くのゼロベースからでは厳しいと言わざるを得ない。なぜなら、スタートには前述のようにシステム構築コストのほか、誰もいないサイトに入会する危篤なユーザーもいない。そのため、一定の会員獲得のメドがつかなければ開始できないという問題もあるからだ。 

「スイートボート」の出会い系サイト用のソフトウエアをASPで使えば、システム構築コストがかからないほか、「スイートボート」の約1万人の会員データベース(DB)も利用できる(会員の許可が前提)。つまりすでに1万人の会員を抱える出会い系サイトとしてスタートを切ることができるわけだ。 

 「スイートボート」としても会員DBは一括で管理しているため、貸出先のサイトが獲得した新規会員は「スイートボート」の新規会員と同義となる。このような会員獲得の窓口が増えるほか、当然貸し出しの使用料も徴収できる。そして、再度その原資を元手に、システム面の強化刷新を繰り返し、常に業界でナンバーワンのシステムを保有するという“儲けの輪廻”を作り上げる戦略だ。 

本当の狙いは詳細な顧客リスト 

 仮にこれまで述べてきた神田氏のビジネス戦略が図にあたり、業界最大規模の会員数を獲得できた時、「スイートボート」はもとより、シムリーが億単位の資金協力を行った見返りが出てくるのだ。それは「スイートボート」が保有する会員リストだ。これは単なる顧客リストとはその質が違うのだ。 

 「スイートボート」は入会時にかなり詳細なアンケートを行う。その項目数は膨大で「100項目は行かないくらい」と神田氏は笑う。名前、住所、学歴、家族構成はもちろん、音楽の趣味や好きな食べ物、性格や恋愛観など非常に細かい。通常、通販企業ではここまでの顧客データは集めらない。顧客に聞いても答えないからだ。しかし、出会い系サイトという性格上、「聞けない項目はない。むしろ、相手に自分をアピールするため、積極的に細かくアンケートに答えてくれる」のだ。 

 この顧客データが一定数に達すれば、「スイートボート」は広告主のターゲットに合わせた新しい広告収入の可能性も見えてくる。例えば「釣りが趣味な人には釣具屋さんの広告をワン・トゥ・ワンで届ける」などだ。またシムリー本体にとっても本業の通販事業での利用価値は非常に高い。「むしろ、うちで物販をしたいくらい」と神田氏もいうほどだ。 

来年には単年度黒字化を 

 10月現在の単月売上高は約400万円。一方、広告費およびシステム投資に1,100万円のランニングコストをかけたため、差し引き700万円の赤字となっている。ただ、ビデオチャットをはじめ、今年いっぱいまでには準備中だった全てのサービスが整う。また、本体サイトとは別にユーザーの目的に応じた別サイトも12月から稼働を始める。 

 目的別とは結婚相手を探している人だけを会員とする「結婚専門出会い系サイト」や気軽に恋人を探す目的の「カジュアルな出会い系サイト」だ。「結婚専門」では入会時に身分証明書以外に年収を証明できる書類の提出の義務づけが必要。また「カジュアル」は逆に身分証明書がなくても会員になれる。「目的別にすることで、会員も募りやすい。身分証明書の提出を嫌がって入会を断念する人もいるので」と神田氏は説明する。 

 また、同じく12月には米国に現地法人を設置し、出会い系ビジネスが日本以上に急激な伸びを見せる米国の本格進出に打って出る。そのほか、ロシアの結婚相談所やモデル事務所などと事業提携を結び、国際結婚の需要を見込む計画だ。 

このまま、神田氏のプラン通りにビジネスが推移すれば「来年の春には単月で黒字化、また単年度黒字も来期末には達成できる予定」という。もちろん、その保証はないが、可能性という意味では期待したい。
(鹿野利幸)
  


▲TOP PAGE ▲UP