2003.11 無料公開記事    ▲TOP PAGE

第一人者が語る 日本のFSPの現状
日本NCR
流通システム本部マーケティング統括部ラーニング担当
寺子屋プロジェクト塾頭
担当部長 大竹 佳憲氏



日本におけるFSPの導入は、現在どういう段階、状況なのか。

これまで数多くの小売流通店舗でFSPの導入を手掛け、「FSPの伝導師」とも呼ばれる日本NCRの大竹佳憲氏に語ってもらった。(聞き手は野田靖)

――FSPが狙うものは何か。 

余計な販促費をけずって、顧客満足のための施策に回し、収益を改善することだ。

 スーパーの場合、通常売り上げの11.3%をチラシに使っている。一方で、チラシで来店する顧客の売り上げは、全体の35%程度で効率が悪い。不特定多数への販促を行うと赤字になる。逆に優良顧客、また中間にいる顧客を相手に販促をやることで、競争に勝つという考え方だ。 

――FSPを導入した小売の企業では成果がでているのか。 

出ている。大体利益率は1―2%改善する。 

大きな理由は、チラシを減らすからだ、特売チラシに載せる商品は、仕入れ値よりも安く売る『出血サービス』を行うものが多く、売れた分だけ赤字になる。チラシを撒くほど、自分の首をしめる結果だ。これを10回やってるケースを、5回に減らすだけで、広告宣伝費とサービス品での赤字がなくなり利益の改善につながる。 

また、チラシを展開する前には、社内の打ち合わせ、製品の値札変更が必要。終ったら値札はもとにもどす作業が必要だ。もろもろ含めると、これまで小売業は割に合わないことをやっていたと思う。 

――売り上げのうち、FSP用のために使っている還元率はどれくらいか。 

食品だけを販売しているところでは、100円で1ポイント。つまり1%が主流だ。衣料品とか雑貨などを扱う場合は、200円で1ポイントが増えている。その代わり、特定の条件で2−3倍ポイントをつける販促戦術も取り入れている。還元率は最大で1・5%、それを超えるときつい。ポイントの消化率は7090%くらいだろう。 

――ネット販売や通販でもRMFなど、データ分析は行っている。FSPの分析手法と何が違うのか。 

通販で使われているRMF分析は、基本的にダイレクトメールやカタログを送付する相手の選別のためのものだ。FSPが目指すのは、顧客のニーズにあわせた顧客分類。つまり、顧客のライフスタイル、ライフシーンの分類だ。 

例えば、ペットを飼っている人、低脂肪食品や無農薬食品を好む人などをカテゴライズ。仮説を立てて、その世帯にもっとも効果のあることを行う。そうすることで、商品に情報が付加され、何故それが必要なのかを説明することが出来る。 

また、メーカーなどとタイアップして、顧客のメリットを与えることも可能。現状では多くの企業が、価格が安いのか高いのかという情報しかつけていない。それでは、優良顧客のニーズには応えられない。 

――顧客のニーズに応えていき、ワントゥワンマーケティングを目指すといううことか。 

最終的にはそういうことだ。また顧客満足は、最終的にサービスになってくる。モノをうるというのは、物販サービスだ。 

一方、コンビニがいい例だが、売り上げのうち、振り込みサービスやチケット販売など目にみえないサービスの割合が増えている。小売業は、今後総合生活産業に変化していく。セグメントされた顧客の情報をデータベースで持っていることで、いろいろなサービスの提案が可能となる。 

――日本では、FSPを導入した大企業が無いが何故か。 

FSPを導入することで、MDからマーケティングまで、組織を横断した仕組みが必要になるが、一方でそれに抵抗する人も出てくる。 

例えば、チラシを減らすと、チラシ制作部門が大騒ぎ、売り上げが減ったら誰が責任をとるのかという話になる。社内の抵抗があるからトップの判断で、各部門のエースを集めたチームをつくる必要があるのだが、大企業ではなかなか難しい。 

――米国の小売流通では、当然のごとく浸透しているのか。 

米国の百貨店やスーパーはほとんど導入している。一部、ホームセンターで試行がはじまった。 

ただ新店をつくれば、売り上げがあがる業態では、顧客情報への認識が浅いため、FSPに目が向かない。日本でもコンビニ、ドラッグなど新しい業態では普及していない。その意味でネットでもまだまだだろう。  



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